目次:

Page 1 :  「ヌーベルまんが」 言葉の由来
Page 2 :  「まんが」は女性名詞/「パパの翻訳」
Page 3 :  講談社とカステルマン社がしたこと
Page 4 :  作家のイニシアティブ/art-Link 2001/イベントを始めるきっかけ
Page 5 :  ヌーベルまんが原画展/メゾン・ド・ラ・ヌーベルまんが
Page 6 :  ファブリス・ノーのインスタレーション/日仏学院シンポジウム/プレスの反応
Page 7 :  「ゆき子のホウレン草」/まとめ

  JB - このイベントは、『ゆき子のホウレン草』日仏同時出版を記念する意味もあった訳ですが、反響はどうでしたか。本の売り上げ部数を教えてもらえますか。

  FB - 売り上げの正確な部数はまだわかりません。でも出版社は不満ではない様です。私に言えることは、『ゆき子のホウレン草』は東京の紀伊国屋新宿南口店、ブックファースト、パルコブックセンター渋谷店などの主要書店でとても良い売り場に置かれていますし、出版から4ヶ月も経っているのに(TSUTAYA渋谷店)、新刊コーナーにずっと置かれているなんていうこともありました。中でも、美術出版社から1999年に出した前作『恋愛漫画ができるまで』が、さまざまな本屋で再び店頭に出て来たのは驚きでした。

  しかし、自分の作品の売り上げは私にとって二次的なもので、作品の質、誠実さ、作家の求めている所の真の評価にはならないと思っています。むしろ、それは常に、与えられた表現への追従、または流行に迎合する、" ずる賢さ "を示していると思います。私より "営業的" な漫画家仲間や友だちは、私のこの点に関する極端な姿勢を批判します。でも私は単に明快で誠実であるだけという意識しかありません。BD、文学、ビデオコーナーのベストセラーは、ほとんど全ての場合嘆かわしいものです。その一方で、真の宝物は、奇跡でも起きない限り、一般大衆からそっぽを向かれているのです。これに関し、私の作品『ゆき子のホウレン草』を世に出してくれたエゴコミックス社と太田出版に敬意を払うばかりで、この2社が損失を被らないことを祈っています。しかし総じて、単行本のひとつが売り上げで成功することは、作家として、むしろ私は不安になります。

  JB - 全体的に見て、このイベントが作家性の強いフランス=ベルギーBDとあなたの「ヌーベルまんが」という運動のプロモーションに一役買ったと思いますか。新しい出版社や作家と知り合うきっかけになりましたか。

  FB - イベント「ヌーベルまんが」は初めの一歩です。そのためには、これからも同じ様なイベントが必要でしょう。
  既に存在する作品の翻訳にしろ、新しい作品の企画にしろ、通常の方法から離れた、質の高いプロジェクトと言うのは、人と人との交流から生まれるものです。私が「ヌ−べルまんが」を企画したのは、この交流を推進するためです。実際に、新しい出会いが実現し、日本とフランスで幾つか出版プロジェクトが生まれました。
  これらのプロジェクトは、これがなかったら日の目を見なかったであろう、質の高い日本の漫画とフランスのBDのためのものです。

  JB - 日本で、このようなイベントをもう一度するつもりはありますか。また、フランスではどうですか。次のステップとしては、似たようなイベントを使って、日本のアンダーグラウンドな作家達をフランスに紹介することになりますか。

  FB - フランスで同じ規模のイベントが可能とは思いません。少なくとも、始めから同じ規模を望むのは無理でしょう。でも、まず小さなイベントから始めるのも悪くはないとは思いませんか。例えば展覧会。既に1999年、パリの日本文化会館で、漫画評論家・夏目房之介が「MANGA - Une plongee dans un choix d'histoires courtes」と題した素晴らしい展覧会を開催しています。「ヌーベルまんが」展が他の方法と平行して、この流れの続きを担うことになるかもしれません。
  前にも言いましたが、「ヌーベルまんが」はまず第一に作家のイニシアティブ、交流の意志、エスプリなのです。「ヌーベルまんが」の次のステップは多分、編集サイドからのものになるでしょう。私自身はそうなるように働きかけています。もしフランスで同時にイベント、或いは展覧会が開催されるとすれば理想的です。でもこれを私が行うことは出来ないでしょう。日本在住の私がフランスのイベントをオーガナイズするのは困難です。

  JB - このあと何年かかかるか知れないような、壮大なプロジェクトに首を突っ込んだとは思いませんか。自分の作家としての仕事がおろそかになってしまう危惧はありませんか。

  FB - さあ、どうでしょう。実際の所、私は 2001年の1年間を、東京で行なわれたイベント「ヌーベルまんが」のために費やしました。そのうちの6ヶ月は全く鉛筆にも触れませんでした。とはいえもう間もなく、作家活動を再開するつもりです。2002年の1月に、次のモノクロ作品のためにロケハンを開始する予定です。タイトルは『マドモワぜル吉田』。『ゆき子のホウレン草』と同じく、ストーリーは日常の出来事に近いものになります。おそらくほとんどドキュメント・タッチになるでしょう。できればやはり、フランスと日本の同時出版を考えています。そういう意味で「ヌーベルまんが」の精神からは離れないですね。

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2001年10月〜12月
東京とパリを結ぶインターネットインタビュー

インタビュアー:ジュリアン・バスティード
翻訳:佐藤直幹/協力:関澄かおる


ボワレ特集。このインタービューの完全版、及び「ゆき子のホウレン草」など、
フランスの漫画・アニメ関連サイト「AnimeLand.com」にて関連記事を公開中。
© 2001 Julien Bastide / Frederic Boilet
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