日本:初出「ビッグコミック」1998年5月25日発売 No.841
フランス:エッセイ集「l'Apprenti Japonais」収録/レザンプレスィオン・ヌーベル社(2006)

 
 
 
ほとんどの日本人にとって、フランスはアメリカのどこか、カンサスとアイダホの中間辺りの一地方だ。日本に住むフランス人は、アメリカ人観光客に属す。

フランス人が日本人と日本語で会話するのは困難である。が、日本人はアナタを喜ばそうと、加えてNOVAの夜間コースへ辛抱強く通った2年間をやっと役立てられる時がきたうれしさに、必死になって英語で答えようとする。ならばいっそのこと最初から、アナタは自分がフランス人だと告げなさい。さすれば多分、「さすがフランス人!」「アメリカぎらい!」と納得してもらえるはず。

フランス人がなぜ英語で話すのをイヤがるか。それは合衆国や英国を毛嫌いしているわけじゃなく (だって友好国)、ごく単純に、自分たちの言葉を愛してるってことなのに。
実はフランス人が英語を拒否するのはアタリマエで、英語圏の人だってだれも今までフランス語を受け入れなかったし、これから先、受け入れることもないんだから。

  でも実はフランス語圏の人々は、他のすべての言語もまた好きだ。日本に住むフランス人は、何よりもまず日本語を話そうとする。ただ釈然としないのは、日仏カップルは、愛し合うのもケンカするのも英語。非常にザンネンだなあ。また、第二次世界大戦の占領期、パリ市内の壁に書かれたドイツ語の掲示と比べたら、東京のネオンの英米語のほうがはてしなく多い。地下鉄の案内だって、日本語と英語の表記だ。(ひょっとしてニューヨークの地下鉄は英語と日本語か?)

つまり、日本で生活するフランス人は非常に厄介だ。万全を期して2枚のロゴ入りTシャツを常に着ておくのがいいんじゃないか。ひとつは「ボクは観光客じゃない!」、もうひとつは「ボクは米国人じゃない!」。運がよければ相手の日本人がこう締めくくってくれるだろう。「なるほど、そういえばアラン・ドロンに似てる!」。メッセージは通じ、もう”東京のアメリカ人”じゃなくなったね。

 
翻訳 / 関澄かおる

 
© 2006 Les Impressions Nouvelles / Frederic Boilet